会社や組織に縛られず、個人事業主として生活すると対人関係のストレスはありませんし、自分の時間も作りやすくなります。
しかし、個人事業なら何でもいいのか、というとそうではありません。
脱サラして起業はしたものの毎日資金繰りに追われ、休みなしで働いている人は大勢います。
こうなると歯を食いしばってサラリーマンをやっていた方が幸せです。

例えば飲食店。
ラーメン店、居酒屋、喫茶店など個人経営の飲食店はたくさんありますが、まず開店するのに資金が必要です。
そして1店舗だけでは大した儲けにはなりません。
他に不動産の賃貸収入があるとか、すでに充分な資産があってお店は趣味の延長といった感じであれば良いのでしょうが、飲食店1店舗だけで生活していくのは金銭面だけではなく体力的にも大変です。
おそらくプライベートの時間もサラリーマンより少ないでしょう。

大工、左官、塗装業、解体業といった建築関係のひとり親方も大変です。
まず、危険と隣り合わせの仕事なのに、ケガをして休んだら収入にはなりません。
事故に合わなくとも雨が降ったら休みで無収入です。
また、保険業界で建築関係は「危険職種」に分類されている職種が多いので、職種によっては生命保険や傷害保険に加入ができなかったり、加入できたとしても保険料の割増しがあったりします。
そのうえ、年末年始とお盆やゴールデンウィークなどを除くと、1年のうちで休めるのは原則として日曜日だけです。
土曜日や祝日も作業をしている職人は大勢います。

洋品店、精肉店、鮮魚店といった小売業も、チェーン店や大資本のショッピングモールには太刀打ちできません。
このことはシャッター商店街が物語っています。

農業、漁業、畜産、養鶏といった第一次産業も楽ではありません。
原油価格の高騰や為替相場の変動で肥料や燃料、そして餌代などが値上がりしていますし、海外から安価な商品がどんどん入ってくるので、いくら質が良くても国産品は敬遠されがちです。

最も悲惨なのはコメ農家です。
1町歩の田んぼがあっても、普通にコメを作って生活をするのは大変です。
ちなみに1町歩というのは3,000坪、つまり約10,000㎡です。
よく比較される東京ドームが建築面積で約46,000㎡ですから、1町歩というのがいかに広大であるか分るでしょう。

1町歩は10反(1反は約1,000㎡)ですが、1反から8俵~10俵(1俵は60kg)のコメが採れるとされています。
もちろん、この収穫高は天候や害虫の影響で毎年変動します。
米の取引価格は1俵が2万円前後ですから、1町歩から採れるコメを全て売っても200万円前後にしかなりせん。
この売上から肥料代や農薬代、そして燃料代や機械のローンを支払っていると、とても生活ができる金額は残りません。

しかしながら、コメは日本人の主食ですし、休耕して田んぼを荒らすわけにはいきません。
なので、農家の人たちの多くが毎年コメを作りながら外に働きに出ています。

というわけで、個人事業主になるなら業種や職種は慎重に選ばないといけません。